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神戸地方裁判所 昭和52年(ワ)381号 判決 1981年9月28日

原告(反訴被告、以下原告という。)

岡田工業株式会社

右代表者

岡田健三

右訴訟代理人

渡辺義次

被告(反訴原告、以下被告という。)

平和運搬機具株式会社

右代表者

清水利夫

右訴訟代理人

藤原忠

主文

1  当裁判所が昭和五一年三月九日言い渡した当裁判所昭和五一年(手ワ)第二七号約束手形金請求事件の手形判決を認可する。

2  被告の反訴請求をいずれも棄却する。

3  異議申立て以後の本訴の訴訟費用および反訴の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

主文同旨。

二  被告

1  当裁判所が昭和五一年三月九日言い渡した当裁判所昭和五一年(手ワ)第二七号約束手形金請求事件の手形判決を取り消す。

2  原告の本訴請求を棄却する。

3  原告が訴外谷口機鋼株式会社との間で、昭和五〇年五月二九日別紙目録一、二記載の債権について、また、同年六月六日同目録三記載の債権についてなした質権設定契約を取り消す。

原告は被告に対し、金九、八六一、七二九円およびこれに対する昭和五二年四月一六日より支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

4  右3が認容されないときは、原告が訴外谷口機鋼株式会社との間で昭和五〇年七月七日原告から訴外谷口機鋼株式会社に額面金一二、五七八、九〇七円の小切手を振出すのと引換えに約束手形二一通額面合計金一九、四五九、九九五円を訴外谷口機鋼株式会社から原告に交付することにより、差額金六、八八一、〇八八円についてなした内入代物弁済契約を取り消す。

原告は被告に対し、金六、八八一、〇八八円およびこれに対する昭和五二年四月一五日より支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

5  本訴および反訴の訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴)

一  原告の本訴請求原因とこれに対する被告の答弁は、手形判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

二  被告の抗弁

1 被告は訴外谷口機鋼株式会社へ以下、谷口機鋼という。)に対し、昭和四九年七月一三日金一一、四五八、〇〇〇円を貸し渡し、原告が本件手形を取得した昭和五〇年七月七日当時金九、九四〇、〇〇〇円の貸金残債権(本件手形の満期である昭和五〇年一〇月二〇日現在は金九、一一一、〇〇〇円)を有し、弁済期は既に到来していたから、谷口機鋼から本件手形(手形判決添付目録一、二記載の手形)について、その手形金の請求を受けたときは、右貸金残債権を自働債権として相殺し得る立場にあつた。

しかるに原告は右事情を知つて本件手形を取得したから、手形法一七条但し書の抗弁として右相殺を主張し得る。

2 反訴請求原因において主張するとおり、被告は原告に対し、詐害行為取消権を行使した結果、原状回復請求権として、金九、八六一、七二九円しからずとしても金六、八八一、〇八八円を請求し得るから、本訴において、これを自働債権として本件手形金と相殺する旨の意思表示をした。

三  被告の抗弁に対する原告の答弁

1 抗弁1の前段は知らないが、後段は否認する。

2 抗弁2は否認する。

3 原告は谷口機鋼に対し、昭和五〇年七月七日現在金二〇、五七九、二八六円の債権を有していたところ、谷口機鋼は本件手形を含む二一通の約束手形額面合計金一九、四五九、九九五円(第三者振出分一八通額面合計金一二、二七九、九九五円、原告振出分三通額面合計金七、一八〇、〇〇〇円)を神戸信用金庫において割引を受けていたが、同年五月二九日の時点で同金庫に対し、左記(一)、(二)の債権合計金九、二八八、三九一円を有するほか、同金庫に対し、出資金返還請求権金二五〇、〇〇〇円、播州信用金庫に対し同請求権金二〇〇、〇〇〇円、六甲信用金庫に対し同請求権金五一〇、〇〇〇円を有していた。

(一) 谷口機鋼の神戸信用金庫に対する定期預金債権

(金額)       (証書番号)      (満期日)

①二〇〇、〇〇〇円    六−〇四〇六六二   昭和五〇年一一月二九日

②二四一、〇八〇円    六−八八五八一    昭和五一年六月九日

③二〇〇、〇〇〇円    六−一〇二一五一   昭和五〇年一一月一四日

④一〇五、六七二円    六−一〇三六四四   同年一二月二日

⑤一、九一一、〇〇〇円  六−一一一四三三   昭和五一年一月三一日

⑥四六四、〇九八円    六−一一七一二〇   同年四月三日

⑦四、三四六、五四一円  六−一二一八六八   同年五月三〇日

(合計金七、四六八、三九一円)

(二) 谷口機鋼の神戸信用金庫に対する定期積金債権

(金額)       (証書番号)      (満期日)

①一、二五〇、〇〇〇円  八−〇一四四二三   昭和五一年五月二八日

②三二〇、〇〇〇円    八−〇二一八七六   昭和五二年二月二七日

③二五〇、〇〇〇円    八−〇三五五七二   昭和五三年一月三一日

(合計金一、八二〇、〇〇〇)

4 原告は、昭和五〇年七月七日額面金一二、五七八、九〇七円の小切手を谷口機鋼に振出交付し、谷口機鋼は右小切手を、同日、神戸信用金庫に交付して、同金庫から割引を受けていた前記本件手形を含む二一通の約束手形の交付を受けたが、同日、右約束手形二一通を原告に交付した。

①手形21通(額面合計

19,459,995円)

②解約定期預金,積極債権

9,288,391円

③割引戻利息 377,353円

④定期預金利息 93,496円

⑤借入返済金 2,850,000円

⑥借入未収利息28,152

⑦②③④の合計から⑤⑥を

差引いた金額 6,881,088円

⑧①の手形金19,459,995円から

⑦を差引いた金額 12,578,907円

5 以上の事実は被告の知るところであり、原告は被告の了解のもとに本件手形を含む二一通の約束手形(額面合計一九、四五九、九九五円)を取得したものである。

(反訴)

一  被告の反訴請求原因(主位的)

1 被告は谷口機鋼に対し、昭和五〇年六月六日現在金九、九四〇、〇〇〇円の債権を有していた。

2 谷口機鋼は他の債権者を害することを知りながら、原告との間で原告の谷口機鋼に対する金二〇、五七九、二八六円の債権を被担保債権として、別紙目録一、二記載の債権について昭和五〇年五月二九日、同目録三記載の債権について同年六月六日質権設定契約をした。

3 原告は谷口機鋼が昭和五〇年六月末支払不能となつて倒産するまでの間、右質権を実行して質権の目的となつた債権合計金九、八六一、七二九円を取得した。

4 よつて、被告は原告に対して、右質権設定契約を詐害行為として取り消し、かつ、原告が取得した金九、八六一、七二九円とこれに対する昭和五二年四月一六日(反訴状が原告に送達された日の翌日)より支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の反訴請求原因(予備的)

1 原告は昭和五〇年七月七日額面金一二、五七八、九〇七円の小切手を谷口機鋼に振出交付し、谷口機鋼は右小切手を、同日、神戸信用金庫に交付し、同金庫から割引を受けた本件手形を含む二一通の約束手形額面合計金一九、四五九、九九五円(第三者振出分一八通額面合計金一二、二七九、九九五円、原告振出分三通額面合計金七、一八〇、〇〇〇円)の交付を受けたので、右約束手形二一通を原告に交付した。

2 その際、谷口機鋼は他の債権者を害することを知りながら、右約束手形二一通額面合計金一九、四五九、九九五円から小切手金一二、五七八、九〇七円を控除した金六、八八一、〇八八円を原告の谷口機鋼に対する前記債権金二〇、五七九、二八六円の内入代物弁済としたものである。

3 よつて、被告は原告に対し、右内入代物弁済契約を詐害行為として取り消し、かつ、原告が取得した金六、八八一、〇八八円とこれに対する昭和五二年四月一六日(反訴状が原告に送達された日の翌日)より支払ずみまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の反訴請求原因(主位的)に対する原告の答弁および主張

1 反訴請求原因(主位的)1は知らない。

2 同2のうち、原告が谷口機鋼に対して有する金二〇、五七九、二八六円の債権を被担保債権として、原告と谷口機鋼との間において、被告主張の別紙目録一記載①③ないし⑦(ただし、③は金二四一、〇八〇円である。)の債権および同目録二記載の③ないし⑤(ただし、③は金一、二五〇、〇〇〇円、④は金三二〇、〇〇〇円、⑤は金二五〇、〇〇〇円である。)の債権について、いずれも昭和五〇年五月二九日、同目録三記載の債権について同年六月六日、いずれも原告を質権者とする質権設定契約をしたことは認めるが、その余は否認する。

3 同3のうち、原告が被告主張の別紙目録三記載の債権に対する質権を実行して、その質権の目的となつた債権合計金九六〇、〇〇〇円を取得したことは認めるが、その余は否認する。

4 原告は谷口機鋼から前記(本訴)三3記(一)の定期預金債権金七、四六八、三九一円、同(本訴)三3記(二)の定期積金債権金一、八二〇、〇〇〇円合計金九、二八八、三四一円について、原告の谷口機鋼に対する債権を担保するため、質権の設定を受けたが、右質権設定契約は合意解除し、前記(本訴)三4のとおり、谷口機鋼の神戸信用金庫に対する債務の弁済に充当された。

四  被告の反訴請求原因(予備的)に対する原告の答弁および主張

1 反訴請求原因(予備的)1は認める。

2 同2は否認する。

3 原告は谷口機鋼に対し、額面金一二、五七八、九〇七円の小切手を振出交付し、谷口機鋼から本件手形を含む二一通の約束手形額面合計金一九、四五九、九九五円(第三者振出分一八通額面合計金一二、二七九、九九五円、原告振出分三通額面合計金七、一八〇、〇〇〇円)の交付を受けるに際し、右約束手形のうち原告振出分三通額面合計金七、一八〇、〇〇〇円と原告の谷口機鋼に対する債権金二〇、五七九、二八六円と対当額で相殺したものであるから、原告は右小切手(額面金一二、五七八、九〇七円)で右約束手形のうち第三者振出分一八通額面合計金一二、二七九、九九五円の交付を受けたものである。

五  原告の主張に対する被告の答弁

前記三4、前記四3の原告の主張は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

(本訴)

一原告の本訴請求原因についての判断は、手形判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

二被告の抗弁1について

<証拠>によれば、被告は谷口機鋼に対し、昭和四九年七月三一日、金一一、四五八、〇〇二円を弁済期を昭和五一年七月末日として貸し渡し、原告が本件手形を取得した昭和五〇年七月七日当時金九、九四〇、〇〇〇円の貸金残債権(本件手形の満期である昭和五〇年一〇月二〇日現在は金九、一一一、〇〇〇円)を有していたことが認められるところ、被告は、谷口機鋼が差押、仮差押を受け、または手形不渡り等をして信用を著しく害するような事情の生じたときは、ただちに弁済期が到来したものとする旨の期限喪失約款により、または谷口機鋼が期限の利益を放棄したことにより、遅くとも本件手形の満期である昭和五〇年一〇月二〇日までには右貸金残債権の弁済期は既に到来したと主張するのであるが、被告主張の期限喪失約款は、これを認めるに足りる証拠はなく、また、原告が本件手形を取得した昭和五〇年七月七日までに谷口機鋼が期限の利益を放棄したことを認めるに足りる証拠はない。したがつて、原告が本件手形を取得した昭和五〇年七月七日当時、おそくとも本件手形の満期である昭和五〇年一〇月二〇日までに自働債権である右貸金残債権の弁済期が到来することが確定していたものと認められない以上、被告は手形法一七条但し書の抗弁として相殺を主張し得ないことは明らかである。

三被告の抗弁2について

被告が反訴請求原因(主位的および予備的)において主張する詐害行為取消権の行使の是認できないものであることは判旨後記説示のとおりであるが、そもそも、詐害行為取消の効果として取消債権者に対し原状回復請求権として直接支払または引渡しを認めた法の趣旨は、それを債務者に支払または引渡しをしたのでは取消権行使の目的が阻害されるおそれがあり、しかも、その支払または引渡しは、他の債権者とともに弁済を受けるためであつて、その支払または引渡しを受けた財産は債務者の責任財産に帰属すべきものであるから、詐害行為取消の効果として取消債権者に認められた原状回復請求権は、その債務の性質上相殺の許されないものである。

(反訴)

一被告の主位的反訴請求について、

原告が谷口機鋼に対して有する金二〇、五七九、二八六円の債権を被担保債権として、原告と谷口機鋼との間において、被告主張の別紙目録三記載の債権について昭和五〇年六月六日原告を質権者とする質権設定契約をし、原告が右質権の実行をして、その質権の目的となつた債権合計金九六〇、〇〇〇円を取得したことは当事者間に争いがないところ、<証拠>によれば次の事実を認めることができる。すなわち、

原告は谷口機鋼に対し、昭和五〇年三月当時、金一、一九八、七四三円の貸付金債権を有していたところ、当時谷口機鋼が資金繰りに困難な状態にあつたところから、谷口機鋼は原告に対し、別紙目録一記載の定期預金証書、同目録二記載の定期積金通帳、同目録三記載の出資証書を担保として提供する趣旨で交付したうえ、金融を求めたので、原告は谷口機鋼に対し、同年四月三〇日金一六、〇〇〇、〇〇〇円を前渡金という名目で貸し渡したほか、二回にわたり金融をした結果、同年五月二八日現在における原告の谷口機鋼に対する貸付金債権は金二〇、五七九、二八六円となつた。そこで原告と谷口機鋼との間において、同年五月二九日、原告の谷口機鋼に対する金二〇、五七九、二八六円の債権を被担保債権として、別紙目録一、二記載の債権について、神戸信用金庫の谷口機鋼に対する債権が完全に返済されることを停止条件として、原告を質権者とする質権設定契約をし、同年六月五日、神戸信用金庫の承諾を得たのであるが、同月六日さらに原告と谷口機鋼との間において、原告の谷口機鋼に対する右金二〇、五七九、二八六円の債権を被担保債権として、別紙目録三記載の債権について、原告を質権者とする質権設定契約をした。しかし、原告と谷口機鋼との間で同年五月二九日別紙目録一、二記載の債権について質権設定契約をした当時、別紙目録一記載②の債権は存在せず、③は金二四一、〇八〇円であり、また、同目録二記載①②の債権は存在せず、③は金一、二五〇、〇〇〇円、④は金三二〇、〇〇〇円、⑤は金二五〇、〇〇〇円であつた。その後、原告が谷口機鋼に対する金融を停止したところから、谷口機鋼は同年六月二八日手形不渡りを出して事実上倒産したのであるが、当時、谷口機鋼は、本件手形を含む二一通の約束手形額面合計金一九、四五九、九九五円(第三者振出分一八通額面合計金一二、二七九、九九五円、原告振出分三通額面合計金七、一八〇、〇〇〇円)を神戸信用金庫兵庫支店において割引を受けていたところ、当時、同金庫に対し、(本訴)三、3において原告が主張するとおり、定期預金債権①ないし⑦合計金七、四六八、三九一円、定期積金債権①ないし③合計金一、八二〇、〇〇〇円、以上合計金九、二八八、三九一円を有するほか、別紙目録三記載のとおり、同金庫に対し、出資金返還請求権金二五〇、〇〇〇円、播州信用金庫に対し、同請求権金二〇〇、〇〇〇円、六甲信用金慮に対し同請求権金五一〇、〇〇〇円、以上合計金九六〇、〇〇〇円を有していたので、同年七月七日、原告と谷口機鋼とは別紙目録一、二記載の債権(ただし、同目録一記載②の債権は存在せず、③は金二四一、〇〇〇円であり、同目録二記載①②の債権は存在せず、③は金一、二五〇、〇〇〇円、④は金三二〇、〇〇〇円、⑤は金二五四、〇〇〇円である。)についてなされた質権設定契約を合意解除したうえ、原告は、同日、谷口機鋼に対し額面金一二、五七八、九〇七円の小切手を振出交付し、谷口機鋼は右小切手を自己の神戸信用金庫兵庫支店の当座預金口座に入金し、これを資金として、同日、同額の小切手を神戸信用金庫兵庫支店に振出し交付し、(本訴)三、4において原告が主張するとおり、谷口機鋼の神戸信用金庫兵庫支店に対する債権②ないし④(②が前記定期預金債権合計金七、四六八、三九一円と定期積金債権合計金一、八二〇、〇〇〇円の合計額である。)から谷口機鋼の同金庫に対する債務⑤⑥を差引いた金六、八八一、〇八八円と額面金一二、五七八、九〇七円の小切手(合計金一九、四五九、九九五円)で本件手形を含む前記二一通の約束手形(額面合計金一九、四五九、九九五円)の返還を受けて、これを原告に交付した。そして、その際、原告は谷口機鋼に対する金二〇、五七九、二八六円の債権を被担保債権として設定された別紙目録三記載の債権に対する質権の実行として、右債権合計金九六〇、〇〇〇円の譲渡を受けて取得したものである。

以上のとおり認めることができる。

<証拠判断略>。

判旨そうすると、被告が詐害行為の目的とした別紙目録一、二記載の債権についてなされた質権設定契約は、その契約当時、別紙目録一記載②の債権は存在せず、③は金二四一、〇八〇円であり、同目録二記載①②の債権は存在せず、③は金一、二五〇、〇〇〇円、④は金三二〇、〇〇〇円、⑤は金二五〇、〇〇〇円であつたところ、右質権設定契約は合意解除され、右各債権は(本訴)三3において原告が主張する定期預金債権⑦四、三四六、五四一円とともに谷口機鋼の神戸信用金庫兵庫支店に対する債務の弁済にあてられたものであるから、別紙目録一、二記載の債権についてなされた質権設定契約は、これを詐害行為として取り消すことはできない。また、被告が詐害行為の目的とした別紙目録三記載の債権についてなされた質権設定契約についても、別紙目録一、二、三記載の債権について質権設定契約がなされるに至つた前記認定の経緯に照らせば、たとえ詐害行為となり得るとしても、当時、谷口機鋼および原告は債権者を害することを知らなかつたものと推認し得るのであつて、本件全証拠および被告の全立証によつても、谷口機鋼の悪意を認めるに足りない。

二被告の予備的反訴請求について

原告が谷口機鋼に対し額面金一二、五七八、九〇七円の小切手を振出し、谷口機鋼が右小切手を自己の神戸信用金庫兵庫支店の当座預金口座に入金し、これを資金として、同額の小切手を同金庫に振出し交付し、谷口機鋼の同金庫に対する残債権金六、八八一、〇八八円と額面金一二、五七八、九〇七円の右小切手で本件手形を含む二一通の約束手形(第三者振出分一八通額面合計金一二、二七九、九九五円、原告振出分三通額面合計金七、一八〇、〇〇〇円)の返還を受け、右約束手形二一通を原告に交付したことは前記認定のとおりであるが、被告は、原告が谷口機鋼に振出した額面金一二、五七八、九〇七円の小切手と原告が谷口機鋼から交付を受けた額面合計金一九、四五九、九九五円の約束手形二一通との差額金六、八八一、〇八八円は原告の谷口機鋼に対する前記債権金二〇、五七九、二八六円の内入代物弁済したものであるとして、右内入代物弁済契約を詐害行為の目的として、これが取消しを求めるのである。しかし、原告は、原告が谷口機鋼から交付を受けた額面合計金一九、四五九、九九五円の約束手形二一通のうち原告振出分三通額面合計金七、一八〇、〇〇〇円と原告の谷口機鋼に対する債権金二〇、五七九、二八六円と対当額で相殺し、原告が谷口機鋼に交付した額面金一二、五七八、九〇七円で右約束手形二一通のうち第三者振出分一八通額面合計金一二、二七九、九九五円の交付を受けたと主張するのであつて、原告の右主張は、原告が谷口機鋼から交付を受けた約束手形二一通のうち決済のできるものから自己の債権に充当したとするものであるから、十分に首肯し得るものがあるところ(もつとも、手形債権者は、満期前に弁済を受けることを強制されないから、手形債権者の同意なくしてなされた満期前の手形債権を受働債権とする相殺は、その効力を生ずることはないというべきであるけれども、原告が谷口機鋼から約束手形二一通の交付を受けるに際し、原告振出分三通について、その満期前といえども、原告と手形債権者である谷口機鋼との合意により相殺することは、なんら妨げない。)、本件に顕われた全証拠によつても、被告が詐害行為の目的とした内入代物弁済契約の存在は、これを認めることができない。

(むすび)

よつて、原告の本訴請求を認容した主文掲記の手形判決は正当であるから、右手形判決を認可することとし、被告の主位的反訴請求および予備的反訴請求は、いずれもその余の点を判断するまでもなく理由がないことが明らかであるから、これを棄却することとし異議申立て以後の本訴の訴訟費用および反訴の訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(阪井昱朗)

目録<省略>

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